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進行性核上性麻痺

[概要]脳の特定の部位 (脳幹,小脳) の神経細胞が変性し減少するために,歩きにくい,転びやすい,姿勢異常,頚部後屈,動作緩慢といった症状を示します.進行すると眼球の運動制限,認知症,しゃべりにくい,飲み込みにくいといった症状が出現する疾患です.発病後しばらくはパーキンソン病とよく似た動作緩慢や歩行障害などを示すために区別がつきにくいことがありますが,パーキンソン病の薬で症状が改善することはほとんどありません.

[頻度]正確な調査はありませんが,有病率は,10万人に4~5人程度と推測され,パーキンソン症状を示す患者の約5%が進行性核上性麻痺と言われています.
 男女比は,2.4:1と男性に多い傾向があります.発症年齢は40歳以降で,大部分の人は50歳台から60歳台に発症します.この病気にかかりやすいようなライフスタイルなどは特にわかっていません.遺伝性はありません.

[原因]脳内の特定の部位 (脳幹,小脳) の神経細胞が減少し,神経原線維変化という異常構造が出現します.なぜこのような病変が起こってくるかという原因はわかっていません.

[症状]
(1) 姿勢異常と運動障害:歩行時に体のバランスを崩して転倒しやすいというのが最初に気づかれる特徴です.足がすくんだように前に出にくくなったり(すくみ足),歩行のスピードがだんだん増していき止まれなくなる(加速歩行)といったパーキンソン病によく似た歩行障害が出現します.進行につれ,頚部が背屈し上半身が後方にそり返りのけぞるような姿勢になります.徐々に動作が緩慢になり手足の関節が固くなり,最終的には寝たきりになります.
(2) 眼球運動障害:病初期には明らかでありませんが,発症して2~3年目に出現することが多いようです.上下方向,特に下向きの随意的眼球運動が障害されるために,下方に視線を移すことが困難になります.病気が進行すると左右方向の随意的眼球運動も制限され,最後には眼球は正中位で固定して動かなくなってしまいます.
(3) 構音障害・嚥下障害:進行すると嗄れて聞き取りにくいしゃべり方(構音障害),むせやすく飲み込みにくい(嚥下障害)といった症状が徐々に出現します.口からの食物の摂取が困難となった場合には経管栄養が必要となります.
(4) 精神症状:進行すると,思い出せない,反応に時間がかかる,無気力やうつ状態,周囲への無関心などの症状が出現します.病気に対する深刻感が乏しく、屈託がなく多幸的である場合が多いようです
(5)最近,進行性核上性麻痺の疾患概念は変貌しているところであり,古典的症状を示すもの以外に,パーキンソン病とよく似て抗パーキンソン病薬にある程度反応するものや,小脳失調で始まるもの,大脳皮質症状で始まるもの,長い期間すくみ足の症状が中心になるものなどが存在することが明らかになっています.

[診断・検査]熟練した神経内科により診断します.典型例以外では症例ごとに症状は多彩ですので,数か月単位の経過観察が必要な場合があります.MRIでは中脳被蓋の萎縮や第3脳室の拡大などが診断の参考になり,他の疾患の除外診断にも有用です.しかし,診断マーカーとなるような補助検査はありません.

[治療]現在のところ根本的な治療法や症状を改善する特効薬はありません.
(1)薬物 : 抗パーキンソン病薬や抗うつ薬が使用されますが,効果は一時的あるいは無効です.
(2)リハビリ : 歩行障害の訓練や手足の拘縮 (関節が曲がってかたまる)予防にリハビリは必要です.転びやすいので,しっかりつかまれる場所で行います.目印があると歩きやすいので,廊下に色テープで横断歩道のような縞印を作るのも一法です.手拍子,メトロノームの音やヘッドホンの音楽など,音でリズムをつけるのも,すくみ足や歩行を改善します.
(3)栄養 :下方視が困難であるので,食物は目線よりも上に置いて視界に入るようにします.嚥下障害のために食べることが難しくなれば,まずゼリー状のトロミをつけます(薬局で手に入ります).経口摂取ができなくなったら,経管栄養食などを利用して,鼻腔栄養や胃瘻(腹壁から直接胃の中にチューブを入れる)からの栄養補給を行います.
(4)介護 : まず,寝たきりを防ぎ,起床や座位保持を心がけます.特に,転倒しやすい病気ですので,しっかり支えることが大切です.寝たきりになったら,体の向きを変える(体位変換)ことで床ずれを防ぎ,痰を吸引する(吸痰)ことで肺炎を予防します.

[経過]歩行障害や運動障害が徐々に進行しバランスを失って転倒を頻回に起こし,最後には寝たきりとなります.発症に気づいてから寝たきりになるまでの期間は5~ 10年程度ですが,患者さんごとに経過が異なります.末期には食物や唾液の誤嚥による肺炎や,床ずれによる細菌感染などが死因となります.

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