群馬県認知症疾患医療センター 篠塚病院
- ホーム
- 外来のご案内
- 神経内科
- 群馬県認知症疾患医療センター 篠塚病院
- もの忘れ外来
もの忘れ外来
このページでは、当科のもの忘れ外来でよくある病気の一部について、説明を記載しています。
もの忘れ外来
軽度認知機能障害(MCI)
MCIとは、アルツハイマー病などによる認知症とはいえないけれども、知的に正常ともいえないレベルまで低下がみられる状態を指します。
MCIとは右の図のように本来アルツハイマー病などによる認知症とはいえないけれど、知的に正常ともいえないレベルまで低下がみられる状態を指します。
MCI の考え方の変遷は実は多彩なのですが、最近のもっとも一般的な記憶障害に重点を置いた診断基準は次のようなものです。
- 主観的なもの忘れの訴えがある。
- 年齢に比べ記憶力の低下がある。
- 日常生活は正常である。
- 全般的な認知機能は正常である。
- 認知症ではない。
この項目をすべて満たせばMCIといえるのですが、この場合は健忘が主体となりますので健忘型(amnestic)MCIと考えられます。少々ややこしくなりますが、認知機能の低下は必ずしも健忘だけとは限りませんので、健忘以外あるいは健忘に加えて他の機能が障害されているMCIも存在します。話しを単純にするためにここではMCIを健忘型に絞っておくことにします。
では、どうしてMCIが注目されているのでしょうか。地域調査でMCIの頻度を計算したものが世界的にはいくつかあります。大変ばらつきが大きいのですが、65 歳以上の人口の3%から5%という報告が多いようです。しかも、そのMCIの人たちは年間10 〜 15%の割合で認知症に移行していることが分かりました。MCIが注目される理由は、MCIの多くが本当の認知症に進展していくことが分かったからです。
MCIの中にはもちろん加齢による知的能力の低下も含まれていますが、MCIの主体は認知症予備軍であるといえます。
MCIはどうして重視されるのでしょう。塩酸ドネペジル(アリセプト)が上市される以前は、いくらアルツハイマー病を早く見つけても治療法がないのだから仕方ないと早期発見には消極的な意見が多かったことと思います。現在は、ワクチン療法を始めとするより根本的な治療に手の届くところまできていますから、可能な限り早く発見した方が高い有効性を期待できるはずです。また、既存の治療法、生活習慣の改善、危険因子の回避も早期から行うことでアルツハイマー病の発症を抑制、あるいは遅延できる可能性があるという研究結果も報告されています。
MCIの重要性はMCIに気づくことによっては認知症に至る前の早期に諸々の対策が立てられるということにあります。
最後に現状のMCIの問題点について私見を述べます。先に掲げたMCIの診断基準はしっかりしているようですが、実は評価者の観察の入念さや経験によって流動的な面があります。
一般に熟練した認知症の専門家が評価するとMCIの幅は狭くなります。つまり、正常者とアルツハイマー病の移行部分が少なくなるわけです。逆に、不慣れな判断ではアルツハイマー病の部分がMCIに含まれてMCIの幅が広がってしまいます。ですから、画像診断や臨床検査によって客観的に評価する方法の開発が望まれます。さらに、MCIの脳は顕微鏡で見るとどうなっているかといえば、すでにアルツハイマー病と区別できない状態にあるという観察があります。MCIの時期にはすでに手遅れで、もっと早くに対処しなければいけない可能性があります。
いずれにしても、より早く病気の芽を見つけようという不断の努力が大切です。
認知症
認知症は一つの病気でなく、原因となるいろいろな病気がおこす症状です。認知症を引きおこす病気のなかでいちばん多いのが「変性疾患」と呼ばれる病気です。変性疾患は、脳の神経細胞の働きが悪くなり、ゆっくりと神経細胞が死んでいく原因のわからない病気です。アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症ともいいます)が代表的な変性疾患ですが、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などたくさんの病気があります。変性疾患は原因がわからないので根本的な治療は難しいのが現状です。
認知症の原因になる病気には予防が大切なものがあります。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害です。生活習慣の改善は脳血管障害を予防できるばかりでなく、アルツハイマー病の発病をおさえる効果も期待されています。
治療できる認知症の原因もあり、これを見逃すわけにはいきません。特発性正常圧水頭症は放っておくと寝たきりになってしまいますが、適切に診断し治療すると驚くほどよくなることがあります。硬膜下血腫、ビタミンの欠乏、ホルモンの異常なども治療することで認知症が改善する可能性があります。
<認知症の症状について>
脳の神経細胞が死んだり機能が悪くなるために直接おこる症状が「中核症状」といわれるものです。もの忘れ、つまり記憶障害がもっとも重要な症状ですが、そればかりでなく日付・時間や場所があやふやになる見当識障害、判断力の低下、言葉による表現や理解が障害される失語症、分かっているはずの動作ができない失行、五感を通じて対象を認識できない失認、その他にも問題解決能力の低下や実行機能の障害など高次大脳機能に関連した障害が中核症状に含まれます。
一方、生き残って機能している神経細胞が刺激に反応しておこるのが「周辺症状」です。周辺という言葉が誤解されやすいという懸念もあって、最近では「認知症の行動・心理症状」の英語の頭文字からBPSD と呼ばれます。せん妄、不安、抑うつ、興奮、徘徊、不眠、多彩な妄想、暴言・暴力、不潔行為、依存、異食、介護への抵抗などさまざまです。BPSD は適切でない介護や環境の悪影響でおこってしまうこともありますが、くすりの影響を受けることもしばしばです。原因となるくすりを調整することで改善することもあります。
認知症を引き起こす代表的な病気
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)
いちばん多い認知症の原因です。本当の原因はまだ明らかになっていませんが、この病気の初期に神経細胞のまわりに「アミロイド」という異常なたんぱく質が集まって「老人斑」(図1)が生じます。その後何年もかけて神経細胞の中に「神経原線維変化」(図2)ができてくる頃には、神経細胞の機能が悪くなり、細胞の数も減って、やがて脳が萎縮してきます。こうして認知症が始まり、じわじわと進行していきます。
<症状>
このような変化が側頭葉の海馬の周辺や頭頂葉など脳の特定の箇所を中心に始まるため、もの忘れ、時間や場所の見当識障害、判断能力の障害などが出現します。初期には、ついさっきのことを忘れるといった記憶障害が目立ち、ガスの消し忘れや物盗られ妄想などがよくみられます。進行期には過去の記憶も障害されてきます。場所が分からず、自分の家の中で迷子になることもあります。徐々に自分のことができなくなり、最終的には動けなくなってしまいます。中核症状とは別に、病気のそれぞれのステージで、幻覚、妄想、徘徊などのBPSD がみられます。
<診断>
記憶の障害が目立ち徐々に進行する認知症ではアルツハイマー病が疑われますが、経験のある専門医が問診、診察、脳MRI、脳血流SPECT などの所見に基づいて診断します。
<治療>
アルツハイマー病の中核症状に効果が確認されている薬剤にはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどがあります。これらは主に症状の進行の緩和を目的としていますが、根本的にアミロイドの沈着を防ぐ試みもあります。当センターでも治験を行っていますので、興味のある方はお問い合わせください。幻覚、妄想、せん妄などのBPSD に対しては、まず不適切なくすりを使っていないか、合併する病気がないかを確認・是正し、環境調整もします。その上で、必要があれば対症的に投薬することもあります。もちろん介護者への適切なアドバイスとサポートも重要です。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳血管障害でおこる認知症です。認知症があり、脳血管障害も確認できて、なおかつその両方に関連があることが脳血管性認知症というための条件になります。脳梗塞の場合に脳梗塞の位置や拡がりから、1)皮質・白質の広範な梗塞、2)白質に限局した梗塞、3)多発性小梗塞、4)認知に関係する重要な部位に限局した小梗塞に分けられます。
<症状>
どこに病変があるかで症状はまちまちですが、基本的には感情失禁を伴いやすく、部分的にとても機能が保たれたいわゆる「まだら認知症」を呈します。比較的病識が保たれていることもあります。運動麻痺や感覚障害などの神経学的所見を伴うことが多い認知症です。
<診断・予防>
認知症と脳血管障害の関連を突き止めるためには、詳しい問診と診察に加えて脳MRI・脳血流SPECT などの画像検査がとても役立ちます。認知症の原因が脳血管障害ですから、脳血管障害の予防がなにより大切です。高血圧、糖尿病、脂質異常症などいわゆるメタボリックシンドロームを適切に治療することが脳血管性認知症の予防につながります。
レビー小体型認知症
レビー小体はパーキンソン病の中脳黒質という部位の神経細胞にみられる異常構造物(封入体)として知られていますが、レビー小体型認知症ではレビー小体が大脳皮質の多数の神経細胞の中に現れる認知症です。認知症をおこす変性疾患では、アルツハイマー病に次いで頻度が高い病気です。
<症状>
アルツハイマー病と似たような認知障害がみられますが、一方で、1)いきいきとした幻視、2)パーキンソン病のような歩行や動作の障害、3)認知・気分・行動面の変動が大きいことが3つの特徴です。一見全く穏やかな状態から無気力状態、興奮といった症状を一日の中で繰り返したり、日中にうとうとすることもあります。怖い夢をみたり、夢につられて体を動かしたりする夜間の行動異常もみられます。起立性低血圧や頑固な便秘など自律神経症状が目立つのも特徴であり、失神や転倒もみられます。BPSD を抑えるためのくすりにしばしば過敏であり、むしろ症状が悪くなることがあるので要注意です。
<診断>
専門医による問診と診察が重要です。脳MRI 検査に加えて、心臓の交感神経機能を反映する心筋シンチ、脳血流SPECT が診断に有用です。
<治療>
アルツハイマー病に使用されるドネペジルが有効とされています。よくみられる幻視などBPSD の治療には、パーキンソン症状の治療とのかね合いや、くすりに過敏であることが多いため、専門的な知識が必要とされます。
前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)
前頭葉や側頭葉に萎縮が目立ち、抑制の欠如、常同行動、無気力などを示す一群の認知症があり、前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)といわれます。昔からよく知られているピック病が原型です。65歳以前に発症することも多く、若年性の認知症ではアルツハイマー病に次ぐ頻度です。新しく発見された異常たんぱくTDP-43の研究などをとおして、病気の概念も生まれかわりはじめている分野です。
<症状>
性格変化、社会性の低下、身だしなみの乱れなどで気づかれます。「我が道を行く」的な行動異常が目立ち、脱抑制のために万引き、暴力など反社会的な行動もみられます。同じものばかり食べたり、同じ行動を繰り返すなどといった常同性も目立ちます。
<診断>
専門医による問診と診察、脳MRI 検査に加えて、脳血流SPECTで障害部位の血流低下を確認することが診断に有用です。
<治療>
前頭側頭型認知症に有効性の確かめられた治療はありません。抗うつ薬が有効であったとの報告がありますが、一般的なものではありません。BPSDに抗精神病薬が使用されることがあります。
特発性正常圧水頭症
脳室や脳の表面は絶えず循環する脳脊髄液で満たされ潤されています。ヒトの脳は1日に3回以上入れかわるほどの脳脊髄液を脳室の血管からつくり、脳表で血管に返します。この脳脊髄液の循環に支障が生じたために、脳脊髄液が脳室を中心に溜まってしまい、脳室が拡大した状態を水頭症といいます。きわめてゆっくり進めば脳内の圧力は高くなりません。これを正常圧水頭症といいます。クモ膜下出血の後で脳脊髄液を血管に返せなくなるような原因が分かっている続発性のものと、はっきりした原因のない特発性のものがあります。最近、認知症のなかで治療できる疾患として特発性正常圧水頭症が注目されています。
<症状>
特発性正常圧水頭症では、進行性の歩行障害、認知障害、尿失禁を3つの特徴とします。すべての症状がそろうとは限りません。歩行障害の頻度がもっとも高く、歩行は左右に足が離れ、歩幅が小さく、すり足であることが特徴です。認知障害としては、記憶の障害に加え、集中力の低下や思考速度の低下など前頭葉機能に関連した症状が目立ちます。
<診断・予防>
専門医による問診と診察、脳MRI検査でこの病気が疑われたときには、髄液排除試験(タップテスト)をします。タップテストで改善すれば、脳脊髄液を腹腔内に導きそこで吸収させるためのシャント手術を行うことで症状の改善が期待できます。
検査の説明
脳MRI検査
磁気を使って細かい脳の構造や機能を調べることができる画像検査の1つです。脳の血管や血流、脳脊髄液の流れなども調べることができます。当センターでは世界最新鋭の3テスラ高磁場MRIが稼働して、認知症の原因となるあらゆる病気の診断に活躍しています。
脳血流SPECT
ラジオアイソトープを利用して脳の血流量を評価する方法です。注射して脳に取り込まれたラジオアイソトープが出す放射線を体外で測定して脳血流を見積もります。脳血流が低下する部位は認知症の種類によって異なりますから、脳血流SPECTでそれを知ると診断に役立ちます。